現場という修羅場で使えるようにする
第121回目の修羅場で思い出しました。
哲学者の中村天風さんにも同じような話があります。
中村天風さんは素晴らしい哲学者で、素晴らしい人生の達人になられたわけですが、中学の時に友達をあやめてしまって刑務所に入るなど、親も手に負えない、預けられた親分も困るほどの大変な暴れん坊でした。
その天風さんが密偵として仕込み杖一本を持って満州に行くのですが、そこでも仕込み杖さえあれば、どんな連中とけんかしても勝ったといいます。
そんな彼が満州とロシアとの国境地帯にいた時、日本の方から新陰流の道場指南役という剣の達人が天風さんの部下として送り込まれてきました。
その達人と天風さんは、暇になれば剣術の練習をするのですが、いつも天風さんがコテンパンにやられていました。
天風さんには部下が3人いたのですが、その3人が一緒になってかかっても同じようにやられて、「さすが新陰流の免許皆伝だけあって強い、この先生と一緒なら鬼に金棒だ!」と天風さんは思っていました。
そんなある日、青龍刀を振りまわす匪賊に天風さんたちは取り囲まれます。
そこで剣の達人の登場だと、天風さんが「さあ先生、今こそお願いします!」と言います。
すると、達人もおもむろに出ていって、仕込み杖を抜いて正眼に構えて微動だにしません。
「さすが先生。向こうが青龍刀をグワングワンと振りまわしているだけで、近寄って来られないじゃないか。」と最初は思いました。
ところが、いつまで経ってもそのままです。
おかしいなと思って見ると、先生が冷や汗をタラタラと垂らして、硬直しているのです。
これはあかん、腰が抜けてしまっていると思った天風さんは、自分の仕込み杖を横へ払って、そのまま切り込んでいきます。
たちまちに4~5人を退治した途端、その先生は何もしていないのに、ヘナヘナと倒れてしまうわけです。
天風さんのこの話のように、道場で教わった剣法などは使いものにならないわけです。
新人研修でロープレをたくさんして帰ってきますが、実際の営業の現場ではほとんど役に立ちません。
先のコンサルタントが「注意はこうするんですよ。」と言っても、実戦では使いものにならないのです。
人前で注意をしては本人のメンツに関わると言うのは、たしかにそうかもしれませんし、私にも分かります。
ですが、実際の現場ではそんなことをしている時間もありません。
だから、私はガンガン注意します。
ただし、私はみんなの面前で注意する理由について、従業員みんなを集めて言うようにしました。
「本来なら、人を注意する時はみんなのところから離れた・隠れたところに行ってすべきだと、本に書いてある。だが、そんなことをしていたら仕事にならない。だから、俺はみんなの前でも注意する。注意するが、それはその人が憎くて、その人をバカにするために注意しているのではない。仕事というものは、間違った瞬間に注意されて直さなければ効き目がない。だから、決っして私が傲岸不遜になり、皆さんのメンツをつぶそうとして注意しているのではない。私に注意された人も、それを横で聞いている人も、そのことを理解してほしい。うちの会社では、人がいるところでもどこであろうともガンガン注意して、問題をスカツと終わらせるようにしよう。」
こういう約束事を、従業員全員としました。