製品への深い思い入れがあってはじめて「声」は聞こえてくる
大量のブロマイドなどをメーカー指定の乾燥温度でプリントするとくっついてしまうため、研究をしていた時の話です。
印画紙を露光→現像→定着→洗い→乾燥させて写真を作るのですが、私の知識と技術が未熟だったせいもあって、なかなかいいものができません。
乾燥させているうちに、反ったり、べたべたしていたり、どうしてもスルメみたいになってしまうのです。
なぜ反ってしまったのか分からず、いろいろと推測しては温度設定の変更を繰り返すという日々でした。
そのうちに、ロール紙の後半になるとカールがきつくなり、そこに乾燥することでさらにカールがきつくなることが分かりました。
そこで乾燥温度を下げるのですが、下げすぎるとべたべたしていてすぐに梱包してしまうとお客様の先では写真がくっついてしまった状態でお届けされることになります。
乾燥温度とロール紙の特性上の関係で、最後の印画紙はカールがきつくなりそのために反ってしまうということが、何回も実験をした結果分かったのです。
もちろん、そのようなことは本には書いてありません。
自力で見つけ出していかなければならないことなのです。
ところが、反りが生じるメカニズムまでは分かっても、なかなか写真を一定にすることができません。
お客さんにサンプルを渡さなければなりませんから、早く作らなければと思うのですが、一向にできない。
やり方を工夫しながら乾燥していっても、思ったものは全然できないわけです。
そこである時、いったいどのように反っていくのか、その様子を見たいと思って、センサーに磁石をつけてプリンタにはカバーが閉じられているという錯覚を起こさせ、カバーを空け、ターンラックを外して、そこから中をひとつの工程が終わるごとに印画紙を確認できるようにしました。
そして、どの工程になった時、どんなふうに反っていくのか、その変化をじっと観察することにしたのです。
すると、やはりロール紙の後ろの方の印画紙は露光の段階からカールがきつくなっており、現像液→定着液→洗い液と浸すごとにカールは弱まるのですが、乾燥の段階で温度が上昇するにつれて反っていく。
何回やっても、まるで生き物みたいに反っていくのです。
見ていて堪えられなくなって、つい穴から手を入れて上から押さえたい衝動に駆られました。
もちろん、そんなことをすれば、乾燥ラックの中は70度から80度という高温ですから、やけどをしてしまうかもしれません。
それは分かっているのに、思わず手を突っ込みそうになるという、そのくらい一生懸命にならなければ「製品が語りかけてくる苦しみは聞こえてこない」のではないかと思います。
結局のところ、弊社の環境では乾燥温度は70度~75度が最適であることが分かりました。
5度の差は、その時の温度や湿度で変わるからです。
冬の乾燥した部屋では75度の設定でちょうどいいし、夏の湿った暑い日は70度くらいがちょうどよかったのです。
これも、製品の語りかける苦しさを聞いて導き出された解決案だったのかもしれません。
やはり自分の作る製品には限りない愛情、たとえば「自分の製品を抱いて寝たい」と思うくらいの愛情を注がなければ、いい製品はできないと思います。