お客様からのお問合せお待ちしております
新規の営業のご相談はご容赦ください

第181回目

迂闊に触れることができないような製品を作る

私たちがつくる製品は、「迂闊に触れることができないような製品」でなくてはなりません。

それは、たとえば新車の自動車のように、迂闊に触れると指紋がついてしまうのではないかというくらい洗練されたボディをもつ製品のことです。

製品にはつくった人の心があらわれます。
ラフな人がつくったものはラフなものに、繊細な人がつくったものは繊細なものになります。

たくさんの製品をつくって、その中から良品を選ぶというような発想では、決してお客様に喜んでいただけるような製品はできません。
完璧な作業工程のもとに、1つの不良も出さないように全員が神経を集中して作業にあたり、ひとつひとつが完璧である製品づくりを目指さなければなりません。

2010年頃、PhotoSpotのプリントの注文が軌道に乗ってきた頃、伊里社長から弊社では処理しきれない量が出てくるので、知り合いのプリントショップを紹介して欲しいと依頼を受けました。

私は、知り合いのプリントショップのC店のTさんとG店のTさんを紹介することにしました。
そして、紹介をしてから1ヶ月くらいした頃にサーバーが送られてきて、どんな写真ができるのか見せて欲しいと言われましたので、サーバーに入ってきたデータをプリントして写真を送ることにしました。

しかし、私はできあがった写真を見て、「薄汚れたような締りのない写真」と表現したのですが、白が真っ白ではなく、黒い文字もしまりのない文字でした。
そこで、液を販売していたY企画のNさんとC店のTさんと私とで打ち合わせをして、大変過酷な作業ですがタンクの清掃と補充液の張替えを行うことにしました。

想像を絶する苦労と長い時間をかけて、やっと少しきれいになった写真ができあがると、C店のTさんが夜明け頃に私のところにサンプルを持ってきました。
苦心惨憺(くしんさんたん)して作ったものだとは分かっていましたが、私にはそれがまだどことなく薄汚れているように映りました。
白の下地はきちんと出始めたのですが、文字のまわりに黄ばんだ縁があるように見えたのです。

写真としてのクオリティは格段に上がりましたので、Tさんも夜明けに弊社のお店に持ってきてポストに入れて帰ったわけですが、翌朝それを見た瞬間、私は電話をかけてこう言ったのです。
「前回よりも格段に良くなったが、これではダメです。」するとTさんは、「なぜですか?すごくキレイになりましたよ。」と返してきます。

私はそれに対して、「よく見てください。まだ薄汚れたような締りのない写真に見える。」と答えました。
たいへんな苦労をしてやっとできあがったものを、そのような理由で「ダメだ。」と突き返されたものですから、彼は私にくってかかってきました。

「あなたも写真のプロなのだから、理論でものを言うはずでしょう。それなのに、薄汚い締りのない写真とはどういうことですか!タンクを清掃して、液を張り替えて、これ以上どうしろというのですか?おかしいじゃありませんか。」

「タンクを清掃して、液を張り替えて、写真はキレイにはなったけど、これだけ変色しているということは、なんとか合格ラインにのったというようなサンプルであって、最高の出来とは言えないはずだ。本来、パーフェクトな写真というものは、下地も文字も顔も美しいものであるはずだ。」私は、そう彼に説明しました。

野茂投手みたいに変則的なフォームで投げるピッチャーもいますが、大体において、優れたスポーツ選手はフォームも美しいと言われます。
製品もそうであり、よいモノはよいモノなりに、備えるべき品格があるはずです。

「この写真の下地は本来純白で、黒は締りのある真っ黒で、触れれば手の指紋がついてしまうのではないかと怖くなるくらい非の打ち所のないものでなければならない。それくらい素晴らしければ、最高の写真になるに違いない。」
ここで私は、「迂闊に触れることができないような製品」という表現を使い、頑として彼の持ってきたサンプルを受けつけませんでした。

しかし、彼は「もう限界なので、この写真で出してください。」ということでしたので、アイリス企画の伊里社長に提出しました。
案の定、ダメでした。

Tさんに結果連絡をして、その日のうちに連絡がありました。
なんと校正用プレートを5年くらい変えていなかったというのです。
しかも、校正用プレートは折れていてテープでつないでいたというのです。

弊社の校正用プレートを貸してほしいというので、弊社には校正用プレートが2つありましたので1つを貸してあげました。
すると、さらに劇的に写真の質が向上したのです。
それでもまだ、文字の周りに黄ばんだような縁がありました。

それから2週間ほどたった頃、来店のお客様から大量の注文をいただいてプリントしていたら文字の周りの黄ばんだ縁が取れたので、もう一度アイリス企画さんへ送って欲しいと連絡がありました。
私も今回の写真は納得できましたので写真を送りました。

しかし、アイリス企画の伊里社長からの返答は「もし1回目にこの品質だったらスタートできると思うが、実質3回目でまだセンターがずれていて、拡大率もノーリツの基本設定である100%のままになっていると思うので天地左右がいっぱい出ていない。センターを合わせて天地左右がいっぱい出るように縮小して拡大率を調整して、89mm102mm127mm165mm203mmの各ロールの良い色が出ているロールの方へ調整をすればスタートできるが、長い目で見た時目が肥えているプロの写真館さん相手には無理だと思う。人件費までは面倒を見ることはできないが、かかった費用は出すのであとあとややこしいことにならないように断ってほしい。」と言われてしまいました。

見た目も美しいものとなるまで品質を追求していかなければならない。
それ以降、この言葉は社内で使うようになりました。

「迂闊に触れると汚れてしまいそうだから、手袋をはめてから触ろう。」と思わず思ってしまうくらい、見た目も最高に美しいものを目指していったのです。

ですから、一番館の製品を手に取る場合、何気なく素手で触ってしまうのは御法度です。
必ず手袋をして触るかあて紙をするよう言っております。

この姿勢があったからこそ、一番館は町の写真屋さんから全国の写真館さんの受注を受ける企業へ、発展していったのだと思います。
これは製品の話だけではなく、社員の立ち居振る舞いに対しても言えることです。

社員の立派な振る舞いを通じて、社風にも品格が備わり、一目置かれるようないわば、「迂闊に触れることができないような会社」とならなければなりません。

コメント


コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です