どういう山に登るか、人材登用の必要性を説く
能力はないけれども、古くからいて人間性がよくて一生懸命やってくれる人に対しては、粗末な扱い方をしてはいけません。
その人に合った仕事をしてもらうのです。
また、能力がなくて、いい学校を出ていなくても、トップが伸びていくに従って、自分も一生懸命頑張ってついてくる人は、人間性もよい上に古くから苦労もし、苦楽を共にしながらついてきてくれるわけですから、特に大事にしなければいけません。
京セラの稲盛氏が会社をつくる前に勤めていました会社で、高校卒で稲盛氏の研究助手をしてくれた人がいました。
その人が、1989年(平成元年)に京セラの社長になられました。
当時、連結売上で7000億円、全世界で従業員が37000人ほどいる大会社の社長です。
彼は、稲盛氏が努力をして伸びていくのと同じように努力をして、器を大きくして社長になられた人です。
伊藤社長と同じくらいの年齢で、一流大学を出たそうそうたる社員と比べても問題にならないくらいに、人間性といい、力量といい、素晴らしい人です。
稲盛氏はそういう人をとことん大事にしていました。
これは、会社の大小に関係のない絶対条件だと考えています。
ですが、全員が伊藤社長のようになれるわけではありません。
途中で小さな部門を任せることになる人もいると思います。
小さな子会社の社長をやって、定年を迎える人もいると思います。
中には、まだ会社が零細企業のまま辞めていく人も、また辞めさせられる人もいると思います。
それぞれの器に応じて、違ってくるのです。
ただし、どのような場合でも、「新卒で採用され、努力を重ねて鍛え上げたプロパーなのに、俺はしがないこんなちっぽけな責任者をやらされて、大変不満だ。」というタイプの人を責任者にしてはいけませんし、なっていはいけないのです。
責任者になったことに対して非常に感謝をし、人生に生きがいを感じて頑張っておられる。
そういう素晴らしい人間性を持った人だから、また素晴らしい仕事もできるし、みんなからも信頼されるわけです。
「なんで俺がこんなみじめな仕事をして、小泉さんだけが社長として、あのようにみんなからチヤホヤされなきやならんのや。」
そういう思いの人はとっくの昔に辞めていったか、与えられた仕事がうまくいかなくなっているか、どちらかです。
ですから、一緒に仕事をしながら、素晴らしい人間関係をつくっていくわけですが、その中で心ならずも脱落をしていく人もいます。
または、自分から辞めていく人もいれば、辞めさせられる人もいます。
あるいは、創業の時からずっと一緒に苦楽を共にし、ついてきてくれる人もいるわけです。
今後、会社を伸ばしていくと、次から次へと大きい事業をやっていくことになります。
途中入社で優秀な人を連れてきて、新しい事業を取り組むことも考えられます。
すると、古くからいた人にとって、途中入社した人間が自分よりも上に突然就くこともあり得るわけです。
それだと社内でもめることが容易に想像できますから、その時に私は全従業員さんに、どの山に登るかということをお話しすることになると思います。
「一番館はこういう山に登りたい。一番館という会社をこういう会社にしたい。そのためには、こういう事業もああいう事業もしなければなりません。しかし、今までオフィス用品と写真だけをやってきた我々の仲間だけでは、こういう仕事はまったく門外漢でできない。だからこういうものには、それに合った専門家を連れてくる必要がある。」
「そういう専門家を連れてくるとすれば、途中入社で年は若い上に、昔からいてくれた社員よりも上に置かなければならないというケースも出てくる。それを承知してくれますか?会社をこういうふうに大きくしたいと、私は思っています。そうしようと思えば、そうせざるを得ない。それを、みなさんは認めてくれますか?」
もし、「それは嫌だ。会社を大きくするのはやめましょう。これは我々がつくった会社じゃありませんか。とんでもないやつが途中から来て、我々の上になることは困る。そうしてまで大きくする必要はない。あくまでも我々がお山の大将でいたい。」と皆さんが言うのなら、そうしましょう。
つまり、うちの会社をどうするかという問題は、どの程度の山に登るかということになる。
せっかく一番館という会社をつくったのだから、もっと大きな立派な会社にしましょうと言うのなら、あなたたちの上に途中入社の人間が来るかもしれません。
それを承知してくれますか。
会社は大きくしたいけど、俺の上に偉いのが来るのは嫌だというのではいけません。
あなたや私の器分しか大きくならないのですから、大きくしようとすれば、やはり優秀な人に入ってもらうこともいるのです。
そういうことを従業員さんに話することになると思います。
従業員さんは、「仰る通りで、結構です。やはり、そういう事業を今後展開していくのなら、専門家で我々よりもはるかに優秀な人間がいるはずですから、そのような人に来てもらいましょう。一切、不服は言いませんよ。」と言ってくれて、私も「では、いいな。そうしていくぞ。」とみんなが納得ずくでやっていきたいわけです。
今から50億円まで拡大していこうとしますと、おそらく一責任者の平均売上高が年間1億円くらいになると思われますから、50人くらいの人が責任者になっていく。
競争の激しいオフィス事業部と、衰退業のイメージング事業部を管理するというのは並大抵のことではありませんから、相当優秀で切れ者の責任者が必要になってきます。
そこへ登っていくには、ステップ・バイ・ステップで、そういう人たちを入れていかなければならないと思います。
今お話した問題は、これから責任者になられる人みんなに共通する悩みなのだろうと思います。
この問題がうまくスムーズにいきさえすれば、会社は自然と大きくなっていきます。
言葉で言えば簡単ですけれども、感情を持った人間、自分と一緒にやってきた人間との問題ですから、難しい問題です。
ですが、ぜひ頑張ってください。