倹約を旨とする
私たちは余裕ができると、ついつい「これくらいはいいだろう」とか、「何もここまでケチケチしなくても」というように、経費に対する感覚が甘くなりがちです。
そうなると、各部署で無駄な経費がふくらみ、会社全体では大きく利益を損なうことになります。
そして、ひとたびこのような甘い感覚が身についてしまうと、状況が厳しくなった時に、あらためて経費を締めなおそうとしても、なかなか元に戻すことはできません。
ですから、私たちはどのような状態であれ、常に倹約を心がけなければなりません。
出ていく経費を最小限に抑えることは、私たちにできる最も身近な経営参加であるといえます。
私が一番館を始めた1997年12月は、お金も何もありませんでしたから、「倹約を旨とする」という考え方を自然に行っていたのは当然だったと思います。
では、現在はどうか。
創業当初の頃から比べると、資金はかなり余裕が出てきました。
しかし、支出についてはかなり引き締めてはいるものの、操業当初から考えると設備投資など甘いお金の使い方をしています。
なぜ「倹約を旨とすべし」と言うのか、そして、なにゆえにまだそれが実行されているのか。
人間の考え方とは、どんどん変化していくものです。
第119回目《稲盛和夫氏の人生の方程式 / 人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力》では「人生の方程式」について、皆さんにお話をしました。
これは、一番館の行動指針の根幹となる、もっとも重要な項目です。
そこで私は、その人の持つ考え方、哲学が一番大切だと強調していますが、「考え方」というものは、実は変化していくものなのです。
人は一生同じような考え方でいくことは、非常に難しいのです。
ある時期には素晴らしい考え方を持っていた。
そのために仕事もうまくいき、人生も順調にいった。
けれども、成功して環境が変わっていくに従って、その人の考え方も変わり、次第に堕落していく。
そして、せっかく成功した人生だったのに失敗が始まり、人生を台無しにしてしまった。
そのようなこともあり得るわけです。
つまり、経営者や従業員が持つ考え方は変化するものであり、それにつれて仕事の状態も変わっていくのです。
「倹約を旨とする」という考え方も、非常に地味で、今の一番館にとってはけちくさい感じがしますけれども、私がよく「利益10%までは毎年0.5%ずつ向上していかなければならない」「現在は過去の結果、将来は今後の努力で決まる」と言ってきたように、この考え方は、仮に売り上げが何千億円という世界規模の企業になっても変えてはいけないものなのです。
企業の根幹となる考え方とは、環境によって変わっていくものではない、私はそのように思います。
自分にもそう言い聞かせていることもあるせいか、たいへんみっともない話ですが、私はどうしても贅沢ができません。
たとえば、出張先でひとりで食事をとる場合、ホテルで夕食をとれば何千円もかかります。
時には1万円近くかかる場合もあり、そのような高額の夕食を平気でとる人がいますが、私の場合、牛丼かラーメンの500円前後で済ませますので、そういう感覚が私には信じられないのです。
私は、仕事の帰りにスーパーマーケットで食料品などを買うのが性にあっていて、買い物かごを持ちながら、50%引きのお弁当を見つけると、明日はOJTがないからこのお弁当でお昼は済ませようと思いお弁当を買ったり、キャベツ1玉が98円で特売をしていれば買ったりしています。
そうしていろいろ買って、「今日はたいへんな贅沢をしてしまった」と思っても、レジで支払うと1,000円くらいにしかならないわけです。
考えてみても、我々が家で食べる食事は、おそらく原価では1食1,000円にも満たないと思います。
それなのに、ホテルで食事をすれば簡単に数千円はかかってしまう。
やはり貧乏暇なしが染み付いているようです。
ケチケチしなくてもいいものを、私はよく吉野家に行って並の牛丼を食べるわけです。
大盛りだとダイエット中の私にはご飯が多すぎるので、牛丼の並を取り、牛肉だけの並の皿をもうひとつ注文する。
牛丼の上の部分から食べていくと具がなくなってきますから、もうひとつとった牛肉だけの皿をご飯の上に乗せてまた食べる。
たったそれだけで、とてもリッチな気分になるのです。
最近はまっているのは、すき屋のご飯少なめでお肉が並みの1.6倍の中盛にキャベツとお味噌汁がついているサラダセットの合計480円のセットです。
会社の経営が順調にいっているので、もう少し良いところへ行っても今の私にとってみれば何でもないはずなのに、それは死んでもできないというくらい恐いことなのです。
お金がないから恐いのではなくて、毎晩そんな高価な食事を平気でとれる神経が信じられないからです。
ちょっと成功すると、いつもホテルで豪勢な食事をとられる方がおられますが、そういう人を見聞きするたびに私は疑問に感じてしまいます。
その人も、会社をつくった当初はおそらく倹約を旨として経営にあたっておられたのだと思いますが、成功し、それだけの贅沢をしても大丈夫だという財政的な裏付けができてくると、贅沢が身についていく。
人というものは、そうやってだんだん考え方が変わってしまうので注意しなければなりません。
コメント
川邉さん
(2015/12/29 12:59)
私も世帯主としていろいろと家計を節約しようと努力を少しではあるが続けているので、どれだけ会社が大きくなろうときちんと経費の削減を心がけるという考え方はよく分かった。
鈴木さん
(2019/07/18 13:45)
私は大きな買い物をする時は案外覚悟が決まっているので即決しますが、小さい物程しっかり考えて調べてどれくらいお得なのかと調べたおします。
何の為に倹約をするのかが重要であると思いました。
小泉社長
(2023/10/26 00:44)
第175回目《倹約を旨とする》はいかがでしたか?
会社と個人は別だというご意見をいただきました。
私は会社と個人は別なんだけれども一緒という考え方をしております。
例えば、浪費癖があって借金ができてしまい、今まで週5日弊社で働いていた人が土日を使ってダブルワークを始める人がいます。
最初の頃は良かったのですが、徐々に疲労が蓄積し始めます。
そうすると月曜日弊社の自動車で営業に出た後、体が疲れ切っているので寝てしまう人がいます。
営業成績というのは非常に正直で、週5日ギリギリ自分の給料を稼ぎ出していたスタッフさんが週4日労働となると自分のお給料も稼ぎ出せなくなります。
すると会社は黒字から赤字へ転落してしまい、全従業員さんにお渡ししていた決算賞与が出なくなり、さらに赤字が進むとボーナスが支払えなくなります。
そうやって1人のスタッフの借金のせいで、小さな会社は全従業員の決算賞与やボーナスが減ってしまうことになるのです。
収入の約20%は何らかの形で残すように倹約に努めてください。