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第138回目

お客様が喜ぶ値段の一番高い点を瞬時に射止める / 値決めは経営

経営の死命を制するのは値決めです。
値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格設定は無段階でいくらでもあるといえます。

どれほどの利幅を取った時に、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分が取り扱う商品や製品やサービスの価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値(きょくだいち)になる一点を求めることです。

その点はまた、従業員さんにとってもお客様にとっても弊社にとっても、ともにハッピーである値でなければなりません。
この一点を求めて、値決めは熟慮(じゅくりょ)を重ねて行われなければならないのです。

有限会社一番館の創業時は、デジタルカメラと複合機やプリンタを扱っていました。
そのため、アナログ写真からデジタル機器に変化する中、「何か仕事はありませんか?」と注文をもらいに行っていました。

今までコニカの現場監督というフィルムカメラで工事写真を撮り、ザ・しゃしん屋一番館で現像をし、できた写真をコクヨの工事用アルバムに工事前→工事途中→工事完了の順番に貼り付けていたものを、デジカメで工事写真を撮り、オリンパスの蔵衛門(くらえもん)などの工事写真管理ソフトで工事前→工事途中→工事完了写真を並べ、プリンタで出力できるシステムをご提案して納めていました。

結果が良ければ、後々その写真管理システムを別の現場でも注文をいただく。
そのような受注の仕事から、一番館は創業していったわけです。
もちろん、お客様先では先発事務機メーカーがすでに入っているにもかかわらず、商品を納める場合もありました。

たとえば、ゼロックスさん、リコーさんといった先発事務機メーカーが大抵入っていました。
そこへ私が注文を取りに行くと、新しい会社が注文を取りにきたというので、「今は○○から買っているが、一番館でこれができるか?値段が合えば(見積りが安ければ)買ってもいいよ。」などと言われるわけです。

そのうちに会社が少し大きくなり、従業員さんを雇うようになると、お客さんも増え、同業者との競争が激しくなっていきました。
当然、お客さんはコストをできるだけ安くしたいと考えますから、商品をなるべく安く買おうとします。

営業の人が行くと必ずといっていいくらい「お前のところはいくらになるのか?見積りを出してくれ。」と言われ、見積りを出せば、「この値段ではタメだ。別の会社からこれより一割も安い値段が既に出ている。この値段では一番館さんには注文できない。」と言われる。

この値段では注文がもらえそうにない、もっと安くしなければ、と見積書を作り直して、またお客さんのところに持っていくと、相手はそれをちらっと見て、「いや、この値段ではまだダメだ。同業者はその後、さらに安くしてきたよ。」と言われる。
つまり「天秤(てんびん)にかけられている」わけです。

私が(ひと)りでしている時は問題はなかったのですが、従業員さんを雇って営業をお願いした時から、購買担当者が天秤にかけたり駆け引きをしてくるとたいへんな騒動となりました。

真面目でバカ正直な弊社の営業はびっくりして、「たいへんです!相手は1割どころじゃない、15%も引いてきたそうです!」と慌てて帰ってくるわけです。
しかしそれは、向こうの購買担当者が駆け引きで言ったことかもしれません。
それをまともに聞いてしまって、慌てふためき、とにかく安い値段を出そうとする。

聞いていると、10件に1件くらい「どうもおかしい」と思う商談があるわけです。
同業者だって、そんなに短期間に安くできるはずがない。
そう思って、私が自分でお客さんのところに直接確認しに行くと、保守料金の設定があったり、1000枚以上などの最低枚数の設定があったり、からくりがあることもありました。

また時には、担当営業よりも先にお客さんの購入担当のところに行って話を聞いたりもしました。
また、帰って来た営業にも、「○○さんの言うことは分かりました。で、○○さんは向こうさんの誰に会ったのですか?最初どういう挨拶をし、それから相手は何と言った?」などと詳しく聞いていって、その時の状況を寸分の違いなく再現させたりしました。

お客さんの15%は駆け引きなのか、それとも真実なのか。
もし、同業者も1割くらいしか引いていないはずだ、駆け引きだろうとヤマをはって「やっぱり1割しか引けません。」と言い切ると、それが外れたら注文は同業者に行ってしまいます。
そうなると、仕事が来なくなり、みんな路頭に迷ってしまうわけです。

そうならないためにも、相手の言っていることが駆け引きなのか、それとも本当のことなのか、その見極めが非常に重要になります。
そう考え、私は交渉の状況を従業員さんに再現させました。
自分は現場にいなかったけれども、「私はこう言いました、すると、向こうはこう返しました。」と、リアルに再現してもらうことによって、相手の真意を見抜くための手がかりを少しでも得ようと苦心したものです。

営業がもし15%も安い値段で注文を取ってくると、その瞬間から製造は15%のコストダウンをはからなければならない。
短期間に15%のコストダウンをすることは、どんな業種であれ容易ではありません。

ところが営業は、「いや、その値段でなければ注文がもらえないのです。」と、こと簡単に言ってのける。
「15%引きと言うが、そんな簡単なことではない。」と私が言うと、営業は「社長がそう言われるのなら、10%引きで出しましょう。でも、それで注文が取れなくても知りませんよ。」と脅してくる。
もちろん、それで仕事がなくなってしまってはこちらも困ります。
そこで私は、営業に対して次のような話をしました。

「新規参入するにしても逆に守るにしても、営業の仕事は本当に大変なのは分かる。しかし、製造や技術や事務の担当者が効率の良い仕事をするにも限界がある。値段が安ければ、注文はいくらでも取れる。だが、それで注文を取って来ても、営業として決して褒められるものではない。営業であっても知恵を絞り、技術を駆使しなければならない。それは、“この値段なら結構です。”とお客さんが喜んで買ってくれる値段、しかもその一番高いところを見抜く知恵、技術です。○○さんが言ったように、15%安くすればお客さんは買ってくれるかもしれない。しかし、その値段以上では、本当に買わないのだろうか。お客さんは君にふっかけたのであって、実際は1割引きでも買ってくれるのかもしれない。いや、もっと高くても買うかもしれない。」

「つまり、お客さんが買おうと思っている値段より、少しでも安ければ喜んで買ってくれるはずだ。値段が安ければ安いほど注文はもらえるだろうが、それでは意味がない。かといって、それ以上の値段では、同業者に受注を取られてしまうから、それも困る。だから、これ以下ならいくらでも取れる、これ以上なら注文が逃げてしまう、その一点を射止めなければならない。その一点を見抜くためには、心血を注いでお客さんと値段の交渉を行わなければならない。お客さんの言われることは、駆け引きなのか事実なのか。それはまさに真剣勝負であって、○○さんみたいに、相手の言葉を鵜呑みにして泡をくって帰って来て、“その値段でなければ売れません。”などと言っているようではどうにもならないではないか。」

つまり、値決めとは、お客さんが喜んで買ってくれる最高の値段を決めるということなのです。
下請けでも何でも、安ければいくらでも仕事はもらえますし、高ければ他社に取られます。

ですから、仕事がもらえる範囲で最高の値段を出す。
ここが営業の腕の見せ所なのです。
値決めというのは、営業が集めてくる資料や情報の真偽をとことん調べ尽くし、分析してお客様が喜ぶ値段の一番高い点を瞬時に射抜くことです。
営業が何の知恵も働かさず、お客さんにただ言われるまま、他社よりも安い値段を提示して注文を取ってくるということでは、経営は成り立ちません。

私は創業者ですから、営業も技術も製造もしてきました。
だから営業のしんどさは大変分かっていましたから、なるべく営業には負担をかけずに、営業が取ってきた値段でシステムをとことん安く作ることが望ましいと考えていました。
そのため、どちらかというと製造側・技術側に厳しく、営業には甘かったと思います。

しかし、それでは困ると思って営業に言い出したのが、この「お客様が喜ぶ値段の一番高い点を瞬時に射止める」ということだったのです。

コメント

川邉さん

(2015/11/23 10:42)

>「お客様が喜ぶ値段の一番高い点を瞬時に射止める」

一朝一夕で何とかなるスキルではないなと思う。
また、こんなことが本当にできるようになるのだろうか、自分には難しいのではないかと感じた。

小泉社長

(2019/06/01 19:58)

第138回目《お客様が喜ぶ値段の一番高い点を瞬時に射止める / 値決めは経営》はいかがでしたか?

商売というのは何が起こるのか分かりません。
たとえば、イメージング事業部にはつばさフォト研究所様というお客様がいらっしゃいます。
グラスホッケーの写真をiCampusでネット販売に切り替えたところ、3000枚ほどアップして100枚程度しか売れませんでした。
今までたくさん注文を貰っていたので、その実績からお安い価格で見積をしてしまって反省をしました。

このように非常に厳しい状況におかれることが多々あるので、やはりどんなことがあっても納得できるようにお客様の喜んでいただける一番高い点を常に射抜かなければなりません。


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