製品の語りかける声に耳を傾けじっくり観察する
問題が発生した時や仕事に行き詰まった時には、その対象となるものや事象を真剣に、謙虚に観察し続けることです。
たとえば、製造現場ではあらゆる手を尽くしても歩留りが思ったように向上せず、壁にぶちあたることがよくあります。
そんな時は、製品や機械、原材料、工具にいたるまで、工程全体をすみずみまで観察し、素直な眼で現象をじっと見つめなおすことです。
不良品や整備の悪い機械があれば、その泣き声が聞こえてくるはずです。
製品そのものが、解決のヒントを語りかけてくれるのです。
先入観や偏見をもつことなく、あるがままの姿を謙虚に観察することが大切です。
私どもの扱っている写真は一種の商品ですが、商品といっても一般の商品とは違って、光に最もよく反応する銀(ハロゲン化銀・塩化銀・臭化銀・ヨウ化銀)を印画紙の表面に使用して、印画紙は光の3原色(RGB)の感光層に光が当たるとそれぞれの層で反応をし、CDという現像液に浸すことで化学変化をおこして印画紙の粒子の1つ1つが色の3原色(シアン・マゼンタ・イエロー)に発色し、BFという定着液(漂白液)で化学反応をおこしている銀(ハロゲン化銀・塩化銀・臭化銀・ヨウ化銀)を印画紙から落とすことで色の化学反応を止め、STBという洗い液でCDとBFを洗い流し、乾燥してできた製品です。
銀塩写真プリントは、重なりあった3つの感光層がそれぞれ発色するため階調がほぼ無限にあり独特の奥行感や深みが表現され、とてもキレイで鮮明な写真に仕上がります。
インクジェットプリンタなどは紙の表面にカラーインクを吹きつけて画像を描く(印刷)ため、銀塩写真のような表現は難しいのです。
感光層の粒子(デジタルの表現で1ピクセルに相当)の量がはるかに多いため、シャープでしかも陰影や微妙な濃淡、色彩の階調が表現できます。
さらに印刷ではなく、化学反応で発色しているため保存性に優れています。
しかし、この製品を作る工程ではBFという定着液で銀(ハロゲン化銀・塩化銀・臭化銀・ヨウ化銀)を印画紙から落とすので、使い終わった定着液(廃液)には銀が含まれており、銀は産業廃棄物処理業者に買い取ってもらい、アンモニアなどを含む現像液と定着液は産業廃棄物処理法に従って有料で処分しなければなりません。
その薬品はプリンタの稼動中は現像液38度、定着液と洗い液は35度で管理されています。
当然、すべての液は蒸発するため、現像液と定着液については液が結晶を作りギアに悪影響を起こすこともあります。
弊社の場合、閑散期にデイリーや乳剤ナンバーの数値が低くなる傾向があり、実際の写真の文字も真っ黒でなくなっています。
また、ギアからキーッキーッと音がなり始め、その後紙詰まりが発生したりしますので、閑散期は特に注意が必要です。
繁忙期は機械を同じ時間動かしていてもこのようなことはあまり発生しません。
写真の現像液に関しては、メーカー指定の補充量と温度が指示されているだけで、それ以外はあまり指示されておらず、ほとんどが経験則に頼ることになります。
そこで、写真ができるまでの基礎知識をもち、先入観や偏見をもつことなく、トラブルが発生した時には状況を謙虚に観察することが必要になります。
そこで私が発見したことは、現像液や定着液は同じ時間稼動していても、プリントをしていないプリンタの液は劣化が早く、常にプリントをしているプリンタの液は安定していることが分かりました。
これは現像液38度、定着液は35度で管理されているので現像液が蒸発するため補充しなければ液が劣化するようです。
そこで、使わないプリンタはブレーカーを落とすようにしたところ、現像液が安定するようになりました。
ギアについても同様で、適度に回っていないプリンタは結晶ができ、ギアの回転が悪くなり紙が詰まることも分かりました。
そこで、現像が終わったプリンタは終業点検をして、ローラーに水をしっかりかけるようにしました。
そうすることで、液の劣化の進行を抑えることができ、ギアも薬品の結晶で回転が悪くなることも少なくなりました。
このように、私どもは自分たちで経験を重ね、法則を導いていくしかなかったのです。
この発見は紙が詰まって取り除く作業工程が激減しただけでなく、キレイな写真を常に供給できるようになりました。
同じような設備を使い、同じような仕事をしていても、赤字の会社もあれば、たいへん儲かっている会社もある。
まさに、製造工程における良品率が会社の優劣を決めているのです。
ですから、私は頻繁に現場に出ていきました。
その時には必ず製品を抜き取って、隅々まで眺めまわしていました。
商品そのものは非常に薄く、精度の高いものです。
たとえば、表面に丸や四角の押し傷のあとがあれば、それだけで不良品です。
もちろん肉眼で分からない時は、ルーペで慎重に調べます。
同時に、不純物が混ざっていないかどうかも見ていきます。
真っ白でなければならない箇所に、小さなゴマ粒のような黒点が表面にあれば、これも不良品です。
そういうものがないか、私はじっと観察していました。
つまり、商品の語りかける声に耳を傾けていたわけです。
コメント
鈴木さん
(2019/11/12 13:35)
働き始めた頃よりは色々な音にも気づく事が増えたと思います。
自分に余裕がなく目の前の事に必死な時は、驚く程周りの音が聞こえていませんでした。
(そんな時はよく先輩達が助けてくれていたなと思い出しました。
私も経験を重ねて助けてあげられるような存在になりたいと思います。
宇都さん
(2019/11/12 13:35)
毎日チェックしている写真は絶妙な工程を辿って仕上げられていること、1枚1枚丁寧に確認して、お客様の元へ届くよう大切に扱わないといけない事を再確認しました。
機械の音にも気づけるようになりたいと思います。
小泉社長
(2021/04/08 22:05)
第185回目《製品の語りかける声に耳を傾けじっくり観察する》はいかがでしたか?
たとえば、うまくいかなかった時や何かミスをしてしまった時に、どのように考えるのかによってそのあとの結果が全く違ってきます。
第37回目《素直な心は進歩の絶対条件》と第38回目《素直な心で仕事をする》に関連したお話になります。
「今回のうまくいかなかったことは自分に何を教えてくれているのかな?」と考えられる時は、素直な心で仕事をしている時です。
つまり、素直な心で仕事をしているので、時間も味方に付き比較的短い時間で解決できます。
逆に、「こんな仕事ばかりさせやがってやってられるか。」と思っている時は時間が敵となり、一向に解決できなかったり、解決するまでに長い時間がかかってしまいます。
さらに、周りのせいにしたりして精神状態まで悪くなっていく人がいます。
そんな人は時間が無駄に進んでいくだけなので、担当を外れたほうがいいと思います。
このことは「何を自分に教えてくれているんだ」と考えればどんなことでも勉強になります。
自分に何か足りないところがあったんじゃないかと反省したり、だからそう考えている時間は勉強している時間、つまり、自分を高めている時間なので有意義な時間になるわけです。
これが、「素直な心で仕事をする」という意味だと思います。
素直な心で仕事をして、時間を味方につけたいですね。
周りのせいにしている時は無駄な時間です。
時間は敵です。
でもね、素直に捉えることができている時は時間は味方です。
成長できる時間です。
「素直な心で仕事をして時間を味方につける」ことはたいへん大事だと思います。